ヒナを孵したのは小さな川のどん詰まりの水門部だ。安定したエサ場を確保するには上流に移動する必要がある。が、水門部の入り口には小さな堰がある。これを越えない限り、上流には移動できない。こうして、私を含めた見物人の脅威から逃れるという防衛本能もおそらくは動機となって、母ガモによる子ガモたちの堰越えの訓練がはじまる。
まずは水でも飲んで |
腹ごしらえもして |
いざ出陣 |
まず母ガモが見本を示す。川の中央で堰の下に立ち、ひらりと堰の上に舞い上がって着地してみせる。明らかに羽の力を使っている。しかし、子ガモには飛ぶための羽がまだない。脚力だけで跳び上がらなければならない。
ひらりとお手本 |
これでは飛べない |
母ガモは堰の上から子ガモたちを誘う。最初は子ガモたちは跳び上がることすらできず、どこかに上がれるところがないか、堰の下を右に行ったり、左に行ったり。川の端にたどり着いては絶望的に立ち尽くす。この部分に斜めのコンクリート坂でもあれば子ガモは楽に登れるのだが... そのうちジャンプを試みる子ガモが出てきて、不思議なことに2、3羽はほどなく堰越えのジャンプに成功する。残りは依然として右往左往組。堰の下から首を伸ばして上の成功組や母ガモを眺めたりもする。頃合を見計らって母ガモは全員を呼び、一緒に巣に戻って休息する。
右往左往 |
困惑する子ガモ |
失敗 |
ジャ~ンプ! |
成功 |
堰下の不成功組 |
早く帰るのよ |
お休みタイム |
日ごとにジャンプの成功者が増え、数日後には全員が堰越えして上流に移動するものと予想して、以後3日間毎日様子を見に行ったが、シナリオどおりに事は運ばなかった。翌日には2羽しか成功せず、3日後でも成功したのは4羽だけだった。それでもあせることなく来る日も来る日も辛抱強く見守り続ける母ガモの姿には頭が下がったものの、私は辛抱強くない。もういいか、と訓練見学を打ち切ってしまった。
そして一週間後、また気になって川に行ったら悪い予感どおりカルガモ親子の姿は消えていた。予想していたこととはいえやはり呆然とする。が、全員の堰越えが成功した証だと思い直し、上流方向に親子を探しに行くことはしなかった。
しばらくするとやはり気になり、その10日ほど後に親子を探してみることにした。堰の数百メートル上流に橋があり、その下にカルガモ一行を発見。子ガモを数えると8羽だ。1羽の落ちこぼれも出していない。全員だいぶ大きくなり、もう飛べる寸前まで羽も整ってきているようだった。それにしても冷静さ、忍耐力、それに統率力をあわせもったすごい母ガモだった。
再会 |