こうした壁画的なものは以前はなかったように思う。商店のシャッターへの描画はかなり以前から見られたが、シャッターの登場そのものが戦後かなり経ってからだ。それ以前に遡ってもこの国に壁画的な文化があったようには思われない。その代わり、看板が相当に古くからある伝統文化なのだろう。
きっかけは公共構造物の側壁にさかんに描かれるようになったカラースプレーの落書きだろうか。一時は側壁という側壁がすべて落書きで埋め尽くされるのではないかと危惧するほどの勢いだったが、最近はずいぶん沈静化したようだ。これも元はといえば、アメリカのストリートアートの模倣にすぎなかったわけで、本場でももう廃れてしまったのだろう。この国の公共構造物の側壁が景観的に心地よいと思ったことはないが、いかにアート風であれ、落書きによってその景観がアップしたケースに立ち会ったことは個人的にはいちどもない。
大人のコントロールの下で子どもたちが描いたとおぼしい壁画もときどき見かける。閑静な住宅地にこんなカラフルなデコレーションが必要かという疑問がわくケースもあるが、執拗な落書きに悩まされた住民たちによる逆襲というか苦肉の策だったという可能性もある。
壁画というより壁漫画? |
すぐに別の絵柄に差し替えられた幻の壁画 |
壁画というより看板的なモニュメント |
こうした壁画的なものは今後どうなっていくのだろうか。壁画的といえば、つい最近小学校の黒板にカラーチョークで絵を描き、登校した子どもたちを驚かせる美大の学生たちの活動がテレビで紹介されていた。はかない壁画。また、建築物にイメージを投影するアートなども注目されているようだ。こちらは幻影としての壁画だ。